大分合同新聞 朝刊 2020.07.25 掲載記事全文

カキ養殖で一石3鳥

大分県は養殖マグロを赤潮から守るため、発生原因のプランクトンを食べるカキを近くの海で育てる取り組みを始めた。貝殻は廃棄せずに畑の肥料として活用する。海と山の生産者が連携し、漁業と農業の振興につなげる。消費者も食を通じ、海洋環境の保全に貢献できる。「海の資源を赤潮被害から守る県民総参加型の新たな試み」として、定着・拡大を目指していく。

 地球温暖化による海水温の上昇などで、赤潮は世界的に増えている。

マグロは赤潮に弱く、県内では2017、8年に南部の養殖施設が大打撃を受けた。業者による対策は限界があり、抜本策として赤潮の起きやすい海域でカキを養殖し、原因となるプランクトンを食べさせて発生を防ぐ。

本年度からの取り組みで、カキ養殖業者1社と有機農業者らが参画している。

カキを育てる場所は、赤潮が最初に発生する海域がある佐伯市・大入島の周辺。同島の養殖業者「新栄丸」(宮本新一代表)が本年度の出荷量を従来の10倍、100トン(100万個)に増やす。近くの海には県内のマグロ養殖量の大部分を占める施設があり、1日約2万トン分の水質浄化能力で守り役となる。

県全体のカキ出荷量は年間約120トンで、大幅な規模拡大。宮本代表は「少しでも赤潮対策に貢献できれば。他の業者にも取り組みが広がってほしい」。

カキは海外や東京、大阪などの都市部に生食用として出荷。これまで廃棄していた殻は細かく砕き、農地の肥料にする。

由布市庄内町でハーブやネギ、ブロッコリーを有機栽培する竹林諭一さん(38)は、その肥料を夏から試験的に使い始める。以前から独自にアコヤガイやヒオウギガイの殻を年間約1トン使用し、カルシウムなどのミネラルを土壌改良に役立ててきた。

竹林さんは「捨てられるものを活用し、海の環境保全に役立ちたい。地域資源の循環を軸にした持続可能な農業は、農産物の付加価値にもなる」と期待する。

課題はカキの養殖拡大、協力農家の確保、肥料の輸送コストなど。県は効果の検証もしながら、取り組みを広げていきたい考えだ。

漁業管理課の宮村和良主幹は「赤潮対策は世界的な課題。大分モデル”が一つの答えになれば」と話している。

(小松和茂)

 

新栄丸掲載情報

「赤潮対策に貢献したい」と、カキ養殖を拡大する新栄丸の宮本新一代表=2日、佐伯市の大入島